どうする?進まない中堅・中小企業のDXとBCP対策。「業務の自動化」ソリューション事例が豊富なベンダー選びが鍵(前編)

企業の労働生産性が向上しないことが日本経済低迷の主因としてあり、それが企業収益や賃金の停滞などを生み、国内経済をさらに冷え込ませる悪循環となっています。その解決策のひとつが、経済産業省が推奨するDX(デジタルトランスフォーメーション)です。

DXは、「製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立する」手法とされます。

日本では中小企業の割合が高く、全企業の99%以上を占めます。今後成長が期待されるのは、大企業よりも、中堅・中小企業であるともいえそうです。「うちは、DXなど必要のない中小企業だから」という声が聞こえてきそうですが、DXは企業規模の別なく、競争力を必要とするすべての日本企業に求められているのです。

では、中堅・中小企業がDXを推進する際には、何が課題となるのでしょうか。また、どこからDXに着手し、どんな将来像を目指せばよいのでしょうか。ユーザックシステム 経営企画本部・アライアンス推進チーム 課長 東條 康博に話を聞きました。前編は、中堅中小企業を取り巻くDXの現状について語ります。

DXは世の中に浸透してきた感がありますが、DXと社会の現状について教えてください。

DXは経済産業省の推奨なので、言葉はかなり浸透してきました。ビジネスはグローバル化が進んだ結果、海外企業との競争が避けられません。一方で、「働き手不足」にも常に直面しており、問題は改善されるどころか、悪化していくと考えられます。そのような環境下では、どのような企業も成長はおろか、現状維持すら難しくなります。企業が成長しなければ、国家も停滞したままです。そのため、経済産業省もDXを訴えているわけです。

DXの効果として、業務の現場の負担削減や効率化があります。そこで生まれる余力(人材・コスト)を、次期商品の開発や新しい事業にあてられる二次効果もあり、むしろそちらが重要です。永続的な事業発展のサイクルを生み出すのがDXで、成長はどの企業にも等しく獲得する権利があり、また社会的な責任であるともいえます。  一方で、2030年には最大で約79万人のIT人材が不足する懸念を経済産業省が発表しました。将来的なIT人材不足の問題は、企業規模にかかわりなく、どの企業もDXによる改革を今すぐにでも着手しなければならない理由のひとつです。

では、DXはIT化とは何が違うのでしょうか? 「デジタイゼーション」と「デジタライゼーション」がありますが、「DX」との関係はどうなのでしょう?

「IT化」と「DX」、 「デジタイゼーション」と「デジタライゼーション」の違いについて問われることが多いのは事実です。

そもそも、「DX」は取り組みであり、ゴールがあるわけではありません。一般的な段階としては、デジタイゼーションを過ぎてデジタライゼーションに移行し、そこで十分な効果を発揮させ、競争上の優位性を保ち続けることがDXと言えるでしょう。

「デジタイゼーション」は「IT化」と同義と考えて差し支えありません。業務用のツールとしてパソコンを使うまでがIT化で、各業務の工程や連携は人の手作業により運営されている状態です。紙の直筆台帳をエクセルの入力表に置き換えた段階に例えるとわかりやすいかもしれません。 

「デジタライゼーション」は、パソコンとソフトウェアでシステム化された個々の仕事を業務のすべてに拡大し、一連のデジタル工程として一貫処理することです。エクセルで管理していた現場のデータを基幹システムと連携させることがその一例です。アナログ作業(手入力でデータをエントリーしなおすなど)がほぼ必要ない状態になります。

ということは、「DX」のためには、「デジタライゼーション」を進めなければならないということですね?

そのとおりなのですが、日本では、まだデジタイゼーションにとどまっている企業が多く、近年ようやく、デジタライゼーションが注目されてきた段階です。前向きにはなってきましたが、実際の取り組みまでに至っている企業は、肌感覚で2割にも満たないかもしれません。 一方で、業務を行う現場では効率化への改善意識は高く、かなり顕在化してきています。でも、そこに目を向ける企業の幹部や経営者は残念ながら少数派で、多くの経営層の認識がまだまだなのです。「まずはデジタライゼーションで、今すぐ現場の負担とコストを削減しましょう」と、私たちはメッセージを発信しているのです。

中堅・中小企業におけるDXやデジタライゼーションは、どのように進めればよいでしょうか?

まずは、経済産業省から公表されているマニュアルやロードマップにあたるものを参考に、自社で計画を立てていきます。このとき重要なのは自社の視点で、DXにどう取り組んでいくかを明確にすることです。DXは経営そのもの、ビジネススタイルや対象市場、将来に向けての方向性にかかわるものになります。厳しい言い方で表現すると「生き残りをかけて何をやるか」です。そう遠くない将来、人手不足と低採算性、そしてイノベーションのない企業として、少なくない企業が淘汰の憂き目にあうかもしれません。手詰まり感のない、新しい経営とビジネスの手段を生み出すためにDXを推進するのです。そのため、DXは経営層のプランにもとづいたトップダウン方式で進める必要があります。どのようにビジネスを変革していくか、将来、何を新しい商材にして持続的な成長を担保していくかなどがテーマです。

トップダウンということは、中堅・中小企業の経営者の考え方が重要ですね

そうですね。どのような方法、何を商材にして持続的な売上拡大を確保するかなど、大部分のビジョンを経営層が考える必要があります。そして、各部署から集まったプロジェクトメンバーを組織化することでDXが推進されるでしょう。プロジェクトの責任者は経営層ですが、現場の情報や意見にもとづいたDXプランにしていくことも大切です。 

ここで重要なことは、既存の事業にとらわれないプランを検討することです。DXで求められる、これまでにない付加価値には、海外進出のような初めてかつ大胆な展開も含まれるのです。そういったダイナミックな視点で、経営層を中心にプロジェクトを推進していく姿勢が大切です。 政府による「DX認定制度」というものがあります。DX認証を得ることで税制控除などもあるので、企業経営上のメリットもあります。DX認定制度は「情報処理の促進に関する法律」にもとづいて、「デジタルガバナンス・コード」の基本的事項に対応している企業を国が認定する制度です。認定されれば、DXに取り組んでいることの証明となります。企業のWebサイトにもDX認証企業であることを掲げられるので、取引先からの評価や人材確保の面でも大きなプラスとなるでしょう。

後編へ続く>中堅・中小企業がDXやデジタライゼーションに取り組む場合、どうするか?